スーツスタイル着こなしのポイント 服地編:イタリア

スーツスタイル着こなしのポイント 服地編:イタリア

 4月に入り『桜の開花』の便りも各所から届き、春到来!と言った感じですが、まだ寒い日もございます。しばらくは、寒暖の差の激しい気候が続きますので、お身体ご自愛ください。

 オーダースーツを発注するときに注意していただきたいサイズ選びのポイント(ジャケット編、パンツ編、ベスト編)をご案内してまいりましたが、今回は最も重要ともいえる生地を生産しているメーカーについて、ご紹介いたします。

 スーツを仕立てるときに、どの生地で仕立てようかな、この生地ならこんな感じかな、と生地を前に悩むのは楽しい時間です。『エルメネジルド・ゼニア』『ロロピアーナ』『キャノニコ』このような生地メーカーの名前を覚えておられる方も多いと思います。
 イタリアの毛織物産地として有名なビエラ地区にあるこの3つのミル(織元)をご紹介いたします。

 オーダーされるときの参考にしていただければ幸いです。

 ピッタリの生地をお選びいただき、スタイリッシュなスーツコーディネートをお楽しみください。
■ビエラ地方

 古くからイタリアの毛織物産地として栄えてきたイタリア北部にある小都市ビエラ(ビエッラともよばれています)。人口5万人ほどのアルプス山脈のふもとに位置する、山と丘が多い美しく豊かな水に恵まれた地域です。このビレラ地区は、世界の高級服地を生み出す一大産地として有名です。
 アルプスがもたらす豊富な湧き水が、原毛が持つ自然な柔らかさや生地の風合いを引き出します。この地域の持つ地理的な特性が繊維産業を生んだと言われています。
  イタリアを代表する著名なミル(織元)『エルメネジルド・ゼニア』『ロロピアーナ』『キャノニコ』もこのビエラ地方に本拠を構えています。

 このイタリア ビエラ地区のメーカーをご紹介してまいりますが、この他にも
・イギリス - ロンドンから北へ250㌔のコルネ川とホルム川の合流点のハダースフィルド
・日本 - 愛知県一宮市、濃尾平野木曽川の近くの尾州
といった有名な産地がございます。また後日こちらもご紹介してまいります。
■ミル(イタリア語:ラニフィーチョ)


 ミル、マーチャント、ライセンス、服地のお話をするとき聞かれたことがあるかと思います。生地メーカーの形態『ミル』についてご説明いたします。

 

・ミル
ミル(Mill)とは、生地を自社で織っている生地メーカーのことを言います(英語)。家族経営が中心の古くから続く織物工場で、自社ブランドで営業しています。 イタリア語ではラニフィーチョ(Lanificio)と言いますが、ミルという表現が一般的です。独自で開発した生地に対するこだわりと愛着を持っており、中間マージンがない分、割安感があります。今回ご紹介する『エルメネジルド・ゼニア』『ロロピアーナ』『キャノニコ』はイタリアのビエラを代表する有名な織元(ミル)です。他にもマーチャント、ライセンスといった形態の生地メーカーがございます。

・マーチャント
「商社」自社で直接生地を製造するのではなく、商社として世界中から良い素材を集める会社です。ドーメル、スキャバル、ドラッパーズなどが良く知られています。広範囲な生地を世界中から集められるのでバリュエーションが魅力的です。ただ、中間マージンが掛かるだけやや割高になりますので同じ価格でミル系メーカーと比べると質はやや劣ることが多いようです。
・ライセンス

ライセンスを供与してブランドだけで生きているメーカーです。商社などが海外のブランドと契約し、国内外の織物工場(ミル)に生産を委託して、それぞれのブランド名を冠して生地を販売しています。こういったメーカーはブランドポリシーはきちんと守りますのでイメージが大きく変わることがないですが、その生地の実質的な価値判断は難しく、商品のブランドとデザインを楽しんでください

■エルメネジルド・ゼニア :糸から紡績まで、妥協なし
 

 最初にご紹介いたしますのが、エルメネジルド・ゼニア氏によって1910年創業された『エルメネジルド・ゼニア社』です。 彼の物つくりに対するフィロソフィー(哲学)は自社で生産される生地は「世界で最も美しいものでなければいけない」というものでした。
 そこで、原毛の買い付け、紡績、染色、は専業の会社に任せ、生地に織り上げるだけ、という企業もある中、 ゼニアは、原毛の買い付け、紡績、染め、生地へと織り上げる作業を自社で行っています。さらに、その一貫して生産する体制に加え、原毛を供給する牧場に独自のネットワークを築き、高い品質の原毛を調達しています。その原毛を元に、他社が追従できない高い品質の服地をマーケットに提供しています。
 また、近年はクールエフェクト、トラベラーといった機能素材も独自の技術で開発し 「高い品質の原毛の調達から、整理加工、研究開発にいたるまで常に真摯な姿勢で取り組んでいます。」と百貨店のバイヤーが語るように、まさに誠実なラグジュアリー生地メーカーです。

→ こちらが2010年クールエフェクト発表時のMen's Exの記事です


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工場のエントランスです。歴史に育まれたクラフトマンシップを感じます。


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中には美しい庭が広がっています。


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煙突に掲げられたエンブレムです。

■ロロピアーナ :老舗でありながらさらに“進化する名門”

 次にご紹介しますのが、1924年創業者ピエトロ・ロロ・ピアーナにより創立された『ロロピアーナ』です。「最高の製品のみを保証する」という企業のポリシーの基、最高品質の原料を使用し、その特性を最大限に引き出した服地を生産している、180年以上、続くイタリアのミル(ラニフィーチョ)です。
 メンズファッション誌でも「ロロピアーナは、装う楽しさを感じさせてくれるところに大きな魅力を感じます。」と語られているように、輝かしい歴史と伝統を持つ老舗でありながら、さらに高品質素材を追求し続けている“進化する名門”といえる姿勢が、世界のファッションファンに高く評価されています。
 また、このような高級スーツ素材の他に、ビキューナ、カシミヤといったラグジュアリー素材にも大きな強みを持っており、「世界の高級カシミア100%の30%はロロ・ピアーナによって生産されている。」といわれています。

 2013年にモエ・ヘネシー・ルイヴィトングループに加わり、さらに洗練されたファブリック(服地)の開発が期待されています。 → 繊研新聞の記事です。
■キャノニコ :コストパフォーマンスに優れた高品質服地

 最後にご紹介いたしますのが、ヴィターレ・カノニコ氏により1936年に創業された、Vitale Barberis Canonico 『ヴィターレ・バルベリス・キャノニコ社』です。その前身のテキスタイル屋としての創業は1663年といわれており、350年以上続く超老舗ブランドです。
 来日時にクリエイティブディレクターのフランチェスコ・バルベリス・キャノニコ氏が「美しく価値あるものを作ることに時間を割くべきです。私たちが貫いてきた信念です。」と語っているように、その高品質な生地を生み出す企業の姿勢は世界中のサルト、ラグジュアリーブランドから、高い評価を受けています。
 高い企画力、大量生産によるコスト管理力、を実現しながらトップクオリティの生地を生み出す企業力は、まさにビエラに位置するミル(ラニフィーチョ)を代表する企業のひとつです。

 昨年、品質の良い原毛の供給体制強化に向けオーストラリアに「ウール・エクセレンス・クラブ」を発足させてた時の繊研新聞の記事がこちらです。→ 豪州羊毛の品質維持へ
スマートなオーダースーツスタイル


 今回はこの3つのイタリアのビエラ地方のメーカーをご紹介いたしましたが、世界の高級毛織物産地は他に、英国 - ハダースフィルド、日本 - 尾州 とございます。それぞれの地域のメーカー、特色といったものを順次紹介してまいります。

 オーダースーツは、従来の様にサイズを合わせてお作り頂くイージーオーダー(サイズフィット)から、お客様のイメージ、スタイリングをオーダーして頂くビスポークテーラー(イメージフィット)へと変わってきました。

 お客さまだけの1着をお仕立するオーダースーツ。ビジネスのユニフォームではなく、こだわりのスタイルを表現するファッションアイテムとしてご活用ください。これからも、お付き合いのほどよろしくお願い申し上げます。

      MD 玉岡


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