ビッグヴィジョンは物作りにこだわります。

 あまり実感はないのですが、百貨店の方に聞くと、最近はオーダースーツブームだそうです。

なんでも節約疲れで、価格一辺倒のスーツに飽きが来ているのか、それとも消費者の皆さんが“身体に合うスーツ”を求めているのか?良く分からないのですが、とにもかくにも百貨店では、レディーメイド(既製品)のスーツ売り場は前年割れで、オーダースーツ売り場は前年比プラスだそうです。(実感はないのですが、、、)
ありがたいことです。。。

それはさておき、読者の皆さんは、『既製服とオーダースーツの違い』『オーダースーツの中でもお店の違い』ってどのように認識されていますか?

今回はそんなところをご紹介できればと思い、当社のオーダーに対する思いや今月から取り扱い始めた新素材(副資材)のご紹介をいたしたいと思います。

さて
そこで、まず『既製服とオーダースーツの違い』から考えてみたいと思います。

誰でもがお分かりかと思いますが、既製服はReady to Wear つまり、すぐ着ることができる服です。
ですから沢山のサイズを持ち、その中から自分の身体に合った(合うと思われる)サイズを選び、買うものです。
ある種、最大公約数的な製品ですが、昨今は膨大なサイズデータから平均的な数値を出しますので、見る目を間違えなければある程度、自分にあったサイズのものをお求めになることが出来ます。

一方で、オーダースーツは何かというと、
オーダーメイドで、個別で仕立てますので時間は掛かりますが、お客様の身体の隅ずみまでサイズを測ることで身体に合ったサイズで仕立てます

人の身体は千差万別ですし、仮に同じ人であっても、時間経過によって体型は変わっていきます。
若い頃は胸板が厚く、ウエストは引き締まっていますが、年をとるにつれ、体重が仮に変わらなくても、胸筋は落ち、お腹が出る一方、若い頃よりも腕は細くなります。

このような個別の変化を対応させるのがオーダーの良いところですが、代表的なところでは次のような点をオーダーでは当たり前のように対応しています。

それでは、オーダースーツのオーダーならではのところをいくつかご紹介しましょう。


■ 袖丈 ・ 着丈 ■

>>> 体型は人それぞれですから身長の高い人もいれば、スポーツをやっていた人など左右で腕の長さが違う人もいます。

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上の画像をご覧下さい。
左のお客様がお召しになっている上着は、明らかに袖が短く、シャツが大きく出てしまっています。
(シャツが長すぎるという面もありますが、、、)

オーダーでは袖丈は、肩から測るのではなく、実は指先からも測ります。
どうするかというと、適切な袖丈は親指の先から約11〜12cm※1といわれ、親指からの距離を出来るだけ等距離にすることで、見た目を整えていきます。

※1お客様の好みもありますし、身長差もありますから絶対的な基準ではありません。
既製のシャツをお召しの方には、スーツの袖丈に左右差をつけるとシャツの見え方で違和感が出るため、左右の袖丈を変えないケースもあります。


それを適切な袖丈でお仕立てすると、右画像のように隙のないスーツになります。

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スーツは肩で着る」とよく言い、肩幅サイズを重視しますが、小柄な方で肩幅がある人は、肩に合わせると上着の丈が長くなってしまい、短足に見えたりすることがあります。
上のお客様は小柄でスポーツマン体型です。
ですから、肩幅がしっかりしているため、肩幅にあわせると左画像のように上着丈が長く、短足に見えてしまいます

それを、肩幅はそのままに、上着丈を2.0cm程短くして仕立てると、すごくすっきり見えます

オーダーではこういったA体・B体などでは網羅できない体型をカバーするのがオーダーの良いところです。

■ なで肩 ・ いかり肩 ■

>>> 次は、肩の傾斜についてです。
既製服では網羅できないことの1つに肩の傾斜への個別対応があります。
皆さんは、なで肩・いかり肩?
男性でなで肩というとちょっとナヨナヨしているように見えて、気になる人もいらっしゃるかと思います。
またいかり肩の人は、首の付け根にツキジワというシワが出て、気になる方も多いのではないでしょうか?

こういった肩のバランスを調整するのもオーダースーツの良いところです。※1
※1:ここで言うオーダースーツはいわゆるイージーオーダーで、一般的に言うパターンオーダーではありません。パターンオーダーでは肩バランスの調整は出来ません。(一般論として)

オーダースーツでは、これらを簡易な方法としては肩パッドの厚みに変化を持たせ仕立てることで。
また、技術的にしっかりしたお店では、肩の傾斜に合わせて型紙を修正し、個別に仕立てることが可能です。
(イージーオーダーの場合は、5mm単位が一般的です。)

これぐらいでしたら最近はインターネットなど情報量が増えていますから、ご存知の方も多いのではないでしょうか?

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でも、もう少し掘り下げていくとこんなことも出来ます。

■ 反身体 ・ 屈伸体 ■

>>> 反身体というのは身体が “反り身”になっている人をいいますが、簡単に言うと、若くて胸板が厚い人や、逆に肥満体で、お腹の重さのバランスをとるため背中が反っている人が一番多い体型です。
屈伸体はその逆で、猫背のように少し前かがみになっている体型で年配の方や、姿勢の悪い方が多い体型をいいます。

こういった体型の方は、例えば反身体なら、ストライプ柄のスーツを着たとき、本来はストライプの柄が真っ直ぐ下に降りなければならないものがVの地に見えてしまったり、逆に、屈伸体の人は、前かがみのために柄がハの字に見えてしまい、違和感が出ます。

こういった人にスーツを着た時の見た目のバランスを調整できるのがオーダーの良いところです。

「反身体」

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「屈伸体」

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どうでしょうか?
着用している時に、生地の柄がどう表れているか?
そこまで気にするのはオーダーならではのことで、既製服にはない価値観ではないでしょうか?

そして、こういった個別対応が出来ることがオーダーの強みではあるのですが、オーダースーツ業界ではこれらのことは実はまだまだ入門の入り口です。


話は変わりますが、先日、某イージーオーダー店から当社に転職して来たスタッフにこのようなことを聞きました。

『前に所属していた会社(工場)では、(反身)補正は、型紙上どのようにしているのですか?』

すると・・・
「前の会社では補正内容(型紙上の修正方法)は門外不出で教えてくれませんでした。」と言われました。

しかし、これは異な話で、お客様の体型に合わせた補正を入れる時には、修正する場所や大きさをキチンと指示できなければどのような仕上がりになるか、指示する側が分かりません。
なんだか料理屋さんで地鶏と言って販売しているのに、それが地鶏か確認できないようなもので売る側としても不安になります。
実は、世の中にはこのようなオーダースーツ店が意外に多くあります。
つまりは、縫製工場がどんなに能力があっても、それを十分使いこなせない販売店があるのです。


さて、
話を戻しまして、また体型補正の話をいたしましょう。
  先述の各体型補正は、オーダースーツとしては入門編と言いました。

それでは、中級上級にはどんなものがあるのでしょうか?
上級は仮縫などのフルオーダーの世界ですから、本稿では中級までをお話したいと思いますが、もう少しランクが上がった?体型補正にはこんな補正があります。


■ ゴージカット(アゴグセ) ■

>>> ゴージとは上襟と下襟の周辺を指す言葉で、これをカットするとは?何ぞや?と思われるかも知れません。 この補正は胸板が厚く、胸全体が立体的な人に付ける補正ですが、胸の部分は基本的には1枚の平面の生地で出来ております。
でも、これがスーツになったときは凹凸のある胸板にフィットした形状になっていなければなりません。

では、それをどうするか?
皆さんのスーツをご覧頂くとお分かりいただけますが、メンズでは腰にダーツ(切り込み)を入れて、胸の立体感を出します。

でも、胸板が厚く筋肉質の人などは、ダーツだけでは十分体型にフィットさせられずに、画像のように襟が浮いたような症状が出ることがあります。(胸板が厚い人でなくとも、大きく息を吸って肺を膨らませれば似たように襟が浮きます。)

オーダースーツではこういった時、見えない襟の裏側にも画像のようなダーツを入れることで、胸の立体感を増すことが可能です。
これはビッグヴィジョンでは採寸の際に、お客様のご体型をじっくり観察することで、見えない部分にこのような補正を入れることもあります。
皆さんの中で、胸板が厚い人は、ご自身のスーツがオーダースーツなら是非襟の裏側をご覧になってみてください。

ゴージカットされた衿

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ゴージカット後は衿浮きが・・・解消します
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左画像内の黄色い点線ゴージカットの線
ちょうど襟裏に位置して、襟の裏側ですので一見すると表からは見えないダーツです。

右画像はゴージカットをしたスーツの仕上がり。
上↑の襟が浮いている画像のお客様の仕上がりですが胸の吸いつきがグッと良くなっています。


■ 前肩補正 ■

>>> もう1つ。これも少しレベルの高い補正ですが、日本人に多く見られる体型の1つに “前肩”があり、これは前肩と、肩が普通の人に対してやや前方に向いている人を言いますが、こういった人に施すのがこの補正です。

『スーツは肩で着る』という言葉を聞いたことがあろうかと思いますが、着心地の良いスーツ(上着)は肩が合っているため、楽に着ることができます。
この「肩が合っている」ということは何もサイズだけではありません。
着る人の肩の向きと上着の肩の作りの向きが合っていることで、左右の肩2点で上着を支えるのではなく、肩線全体でスーツを支えることで、スーツが楽に着れるのです。


前肩の人は、この肩のラインが通常の方と比べ、前面に出ている方を言いますが、これをその人の肩のラインにあわすべく補正することが前肩補正なのです。

画像をご覧になってください。
前肩の人は点線の楕円のようなシワが出やすく、また黄色●の部分が当たっているような着用感があります。
よく前肩の人は肩が凝る」といいますが、左右の黄色●の2点だけでスーツを支えているから凝ってしまうのです。


いかがでしょうか?
読者の皆さんには思い当たる節がありますか?
オーダースーツ店ではこういた体型補正を、時にお客様にお伝えしながら、時にお客様には黙って色々な補正を行います。

当然このような体型補正の判断には、スーツの構造を理解した理論的な知識と、お客様の体型を見極める経験が必要になるのですが、ビッグヴィジョンではこれらの重要性を考え、毎月店舗スタッフを集め、テストや早朝研修を実施しております。

そしてこのときに講師役を務めるのが、ビッグヴィジョングループのハンドメイド工場のスタッフであったり、オーダースーツのヨシムラのスタッフですが、この勉強会では色々な意見が活発に出てきて、そこからは他社にはないビッグヴィジョンならではのアイテムが登場し、製品に生かされています


そのいくつかをご紹介いたします。
今月から製品(国内縫製分)に反映されています。


ビッグヴィジョンオリジナル ■ 前肩パッド ■ H26.11〜

 先ほどご紹介した前肩補正の一環として、型紙上はともかく「もっと着心地が楽になる方法はないか?」と考えた末に、ハンドメイドの世界で行っている手法(前肩専用肩パッド)を使おうということになりました。

これは、肩パッドには綿が入っていますが、前肩部分だけ綿の量を減らして肩が動作しやすいように空間を広く取り、肩への負担を軽減しようとするものです。

オーダーではこれを個別に量の調整を行いますが、イージーオーダーではそこまでは出来ませんので、前肩専用肩パッドをオリジナルで作成することで対応しました。
>>>今月から順次、前肩補正が必要な方にだけお付けしております。

上:通常パッド
下:オリジナル前肩パッド

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上:通常パッド
下:オリジナル前肩パッド

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分かりづらいので少し説明を加えますと、、、
左の画像は、肩パッドそのものですが、上が通常の肩パッド。下が今回作った前肩専用肩パッド。

肩パッドには胸側、背中側と向きがありますが、画像の右側が胸側、左が背中側です。
上下でご覧頂くと、右側(胸側)の綿の量が上下で違い、下の方が薄くなっているのがお分かり頂けると思います。
僅かな差ではありますが、肩が前を向いている人にとってはこの厚みが軽減されることで、肩の動作性が向上し、着心地が楽になるのです。

続いて、右画像はこれを、ボディーにつけたもの。
どうでしょうか?
やはり下画像(前肩パッド)の方が薄くなっているのがご覧いただけます。

わずか5mm程度の空間が着心地を改善させるのです。

ビッグヴィジョンオリジナル ■ ゴージカット芯 ■ H26.11〜

 胸が厚く、襟が浮いてしまう人への補正としてゴージカットについてお話いたしました。
この補正は、先にご紹介したように既に実施しております。
しかし、、、勉強会を通じ、工場側と色々と話を詰めていくと、現在のゴージカットは、表面的な表地(生地)にだけ切り込みを入れていてスーツ内部の芯地にまでは切り込みは入れてないことが判明しました。
芯地からオーダーで作るハンドメイドの世界では当然ながら、胸板の暑い人には芯地もゴージカットします。

そこで、ハンドメイドと同様の手法をするため、こちらもゴージカット芯というビッグヴィジョン専用の芯地を作成することにいたしました。


これによりただ単に表地をつまんだだけではなく、芯地からダーツを入れますので、胸周りはより立体感が増すことになるでしょう。
こちらも胸板が厚くゴージカットの補正を入れる方には今月から適用しております。


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補足説明いたしますと、、、

画像内が今回製作したゴージカット芯
通常の芯地です。

ゴージカット芯は赤い部分に切れ込みが入っており、これが丁度襟の裏側に当たります。
青い部分は通常の胸ダーツです。)
赤い部分に切れ込みが入ることで、黄色○バストトップに向けた立体感を増すことができます。

胸板の厚い人だけに対応した専用芯地です。


いかがでしたでしょうか?

店頭で時に頼りなく見える店舗スタッフかも知れませんが、実は地道に一所懸命いろんなことを日々改善しています。

考えますと、オーダースーツは消費者の皆さんから見ると、ファッション性、コストパフォーマンス性が重視されているように思えますが、
実は第三の軸があるのではないかと思います。


それはフィット性とか着心地という物作りに関するベクトルです。

オーダースーツ店をお選びになる時は、こういったお店の哲学(フィロソフィー)を考えて見ることも重要なのかも知れませんね。


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