産地取材:生地を織る

 読者の皆さんは、皆さんが普段なんの気なく着ているスーツの生地がどのように作られているかご存知でしょうか?

そういえば、歴史文化博物館で手織の織機(しょっき:生地を織る機械)を見たことあったな・・・なんて方もきっといらっしゃるのではないでしょうか?
イメージとしては鶴の恩返しで出てくるような、ガッチャン、ガッチャン、トントンみたいな感じでしょう。

さて
その織機ですが現代はどのように生地を織っているのか、ご存知の方はそう多くないと思いまして、今回はこれを特集してみます。

スーツ販売が主の当社が何故ここまで皆さんにご紹介するかと言いますと、それには理由がありまして、、、
昨今は東日本の震災復興のムードやチャイナリスクが叫ばれる中で国内生産が見直されていますが、生地については未だそのようなムードになっていないからです。
というのも、昨今のスーツ販売事情ですと売れるのは2~3万円台の中国製品か7万円以上の欧州系インポート商品ばかり。
その間の4~6万円の価格帯が営業上大変苦戦しています。

そしてまさにこの4~6万円台のプライスゾーンが本来は国産商品が活躍する場なのです。

そこで今回は読者の皆さんに国産の良さを知って頂きたくご紹介する次第です。

訪問したのは、日本のスーツ生地の産地、愛知県一宮市。通称 尾州と呼ばれる地方です。
この地方は木曽川・長良川・揖斐川といった水質の良い水があるため昔から紡績業や生地関連の企業が栄えておりましたが、近年の中国シフトによって今は昔、織物工場だったところがゴルフ練習場やショッピングモールになるなど、昔の面影が失われつつあります。
寂しい限りです。。。

しかしそんな中にもキラリと光る企業は沢山ありまして、、、
今回はその中でも生地を織る機屋(はたや)さんにスポットライトを当て、二分化する機屋さんをご紹介します。

■ 低速織機を使う機屋 ■

 初めに簡単に織機について紹介しますと、皆さんがイメージされる鶴の恩返し的な手織の織機はもはや工業生産には適さず、いわゆる工業生産向けの織機は明治・大正期にトヨタ自動車の前身 豊田自動織機(当時の豊田式織機株式会社)が日本では先駆でした。
(蛇足ですが、トヨタが自動車メーカーになったのは豊田式自動織機の特許を英国企業に売却し、それを元手に自動車製造に乗り出したからです。それだけ当時は革新的な技術でした。)

出典:wikipedia

その後、明治・大正期と欧米企業も含めて自動織機の技術は飛躍的に伸びますが、その中でも19世紀後半に登場するションヘル織機に今回はスポットライトを当ててご紹介します。

< ションヘル織機 >

 この織機は高速自動織機が出来る前世代の織機として主に明治大正期~1960年代頃まで使われていた織機です。
どこが特徴かというと、手織の機械を省力化合理化したため最近の高速織機と比べると仕上がりの風合いが俄然良いところです。※詳しくは後述します。

そして、織機業界の中では名機と言われるこのションヘル織機は現代的な生産効率は非常に悪いものの、風合いの良さから根強いファンが多く、この愛知県一宮地方の機屋さんにはそれをまだ頑なに守り続けているメーカーが数社存在しています。

それでは百聞は一見に如かず。
その織機が実際動いているところを見てみましょう。


ご覧いただいて如何でしたでしょうか?
結構なスピードに見えますが、シャトルの往復は1分間に120回程度。
丸一日動かしても実は1反も織り上げることが出来ません。
一方、後述の高速織機では1分間に約600回以上動かすことができ、生産性は5倍以上
1日に5反織り上げることが可能です。
しかし、ここで疑問が出てきます。

それはスピードが遅いからといって、どうして生地の風合いが良くなると言えるのでしょうか?
次にそれを説明しましょう。

< 低速織機と生地の風合いについて >

 低速織機の動きについてはご覧頂きましたが、これがどうして高品質につながるのか?
そこには、生地が縦糸と横糸を交差させ織り上げた織物であることが影響しています。
(業界的な正式用語では縦糸は経糸です。)

つまり、、、
先程ご覧いただいた織機は沢山の縦糸を交互に、上下に隙間を広げ、その間に横糸を入れたシャトルを通すことで織り上げます。
この時、上下するのが動画内で織機の上の方にあった綜絖(そうこう)と呼ばれる大きな板のような物。(織り柄を作る役割もあります!)
ションヘル織機の場合は木製の大きなシャトルを通すため、これを大きく上下させて隙間を作らなければ織ることが出来ません。


そしてこの大きな上下運動は、無駄な動きを伴なうため生産性を悪化させますが、逆に言うと大きな上下運動により、図のように織り上げた生地に膨らみが出るのです。


実際、生地(反物)は大抵が1反=50mの企画で織りますが、その際に使用する縦糸は高速織機では58m程度なのに対して、ションヘル織機では61m前後3m程度余分に縦糸を使い、その差が生地の膨らみをもたらしているのです。

仕立てた時、着やすく立体感のある生地というのはこうして織り上げられていくのです。

< 低速織機とそのコスト>

・・・と、ここまではある程度はお分かり頂けると思いますが、今回はもう少し進んで低速織機によるコストについて考えてみます。

実のところ、低速のションヘル織機を使用した生地は通常の高速織機の生地と比べるとはるかに高価な生地です。
織機の稼働スピードが1/4~1/5ですからそれもやむを得ないところです。

ですが、実はもう1つ低速織機が割高になる要因があります。
それは1回に織り上げる生地の量が大きく関係しています。

これは業界人でも良く分からず値切る人がいるので説明しますが、ションヘル織機で織るような生地メーカーは販売力の弱い中小零細企業が多く、1柄あたりの生産反数が1~2反と小ロットです。
一方で、高速織機は例えば学生服などが分かりやすいですが同じ色柄の生地を大量に生産するのに適しています。

そこで皆さんに考えて頂きたいのが縦糸を整経するコストです。

縦糸?整経?何のこと?と思われると思いますが、簡単に言うと、生地を織るためには事前に縦糸を一本一本分けてその間に仕切を入れなければなりません。(↓画像参照)

皆さんは一般的な幅が150cmの生地に何本の縦糸が入っているか?想像してみて下さい。?
300本?500本?
いえいえ、5,000本です。

その糸一本一本に仕切を付けて穴に通して上下運動させるのですから、この縦糸の準備をするのが実に膨大な作業なのです。


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画像左は5000本もの縦糸をまとめていく作業。
最終的には画像右のように1本1本仕切り板の間を通し、画像下のように織機に組み込まれていきます。

しかも、この作業は1反作っても20反作っても作業としては全く同じだけの仕事なのです。
この初期コストを1反で全て負担するか20反で1/20にするか?これは生地代に大きく反映されてしまいます。(中国製の生地が安いのはこれを大ロットで行えるからです。)

ですから生産効率の悪いションヘル織機でもそこそこの販売量が見込め、20反といかないまでも1柄で3~4反程度製造することが出来ればコストはある程度引き下げられるのです。
ちなみに1反は約15~16着分ぐらいです。

実はまさしくこれが当社の狙いでして、当社の販売数量でしたらこの品質の物をお安く提供が出来るのです。
(→2013年の秋冬からこの企画での商品を提供する予定です。)


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それでは続いて、国産のもう1つの良い点、高速織機をご紹介しましょう。

■ 高速織機を使う近代化されたメーカー ■

先に織機の歴史を簡単に話しましたが、ションヘル織機以後、生産性の高いレピア織機ズルツァー織機などが導入されますが、行き着いた先は高速エアージェット織機でした。

こちらも動画をご覧下さい。


いかがでしょうか?

この高速織機は横糸のためにシャトルを飛ばしません。
代わりに、エアー(空気)で横糸だけを必要量だけ凄い勢いで飛ばします。
このスピードも早いですが、シャトルを使わないため縦糸を大きく広げる必要がなく、縦糸の上下運動を最小限に留めることでも省力化・スピードアップが図れます。

こう言った所はそれこそ日本のハイテク技術の見せ場です。

さしずめションヘル織機がハーレーの単気筒エンジンだとすると高速織機はV12気筒エンジンなのでしょうかネ。



いかがでしたでしょうか?低速織機と高速織機の違い。

ビッグヴィジョンでは高速織機でコストダウンした商品もご提供しますし、非効率なションヘル織機でも製造ロットを調整することで他社には負けない価格帯を実現したいと思っております。

少し先になりますが2013年の秋冬には、RESPECT JAPANではありませんが国産の意地として4~6万円台の所にこれらの新商品を投入したいと思っております。

ご期待下さい。

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